陸前高田市立図書館

陸前高田市立図書館


「落ち着く憩いの間」


インタビュ―対象:                      
      陸前高田市役所   芝祐仁さん
      陸前高田市立図書館 元木香代さん・村上利恵子さん


電話番号:0192-54-3227
開館時間:火~金    午前10時~午後7時
     土・日・祝日 午前10時~午後5時
休館日: 毎週月曜日(月曜が祝日の時は開館し、その直後の平日を休館)
     年末年始(12月29日~1月3日)
     資料整理日(7月、12月を除く毎月最終水曜日)
http://www.city.rikuzentakata.iwate.jp/tosyokan/index.html
図書館外観:児童コーナーの丸い窓・大きな傾斜屋根が目印です

図書館の柱・梁と杉フローリングは地場産の木材を使っています


■くつろぎの空間
陸前高田市教育委員会 芝さん(一級建築士)
 図書館に入った瞬間、安らぎを感じた。開放感があり、程よく太陽の光が入るこの図書館は、いくらでも長くくつろげてしまいそうだ。窓際の席に楽しそうに座っている利用者を見かけた。
 「『滞在型図書館』を目指した」と市の教育委員会職員で一級建築士の芝さんは言う。市民の居場所づくりを考え、日常の中の非日常空間を作った。
 例えば、スペースによって異なる天井の高さ。柔らかな布を張った椅子。誰でも理解できるイラストの描かれたサイン。車いすの利用者が通れる広い通路。時間帯または場所によって照度や色を変えられるLED照明。空気がゆっくり流れ、音と風圧を感じさせない空調。Wi-Fiが使える館内。細やかな工夫が随所に見られる。

■多くの助け
 旧図書館開館当時1万冊余りだった蔵書数は、2010年時点で約8万冊になっていた。中には岩手県指定文化財に指定されている吉田家文書や陸前高田市に関する貴重な郷土資料、行政文書もあった。しかし翌年311日に発生した大地震による津波により鉄筋コンクリート造りの施設は全壊し、多くの図書や資料が流失、浸水した。
陸前高田市立図書館の元木さんと村上さん
流失や浸水した資料は、岩手県立博物館などの文化財レスキューにより救出され、都立図書館などで保存、修復処理が行われた。
 一方、全国から寄贈図書の申し出があったが、保管場所が不足しており、元陸前高田副市長の久保田崇さんが本買い取り業者と知り合いだったことから「陸前高田図書館ゆめプロジェクト」を立ち上げることになった。家庭や会社で不要になった本を買い取ってもらい、買取金額相当を図書館再建に充てたのだ。このことが図書館の再建を早くする手助けとなったことは間違いないだろう。

■小さいながらも再開へ
竹駒町で開いていた仮設陸前高田市立図書館
なるべく早く本を市民の方に読んでもらいたい。そんな思いから、震災のおよそ4カ月後に移動図書館の運行を開始した。はじめは市内21カ所を巡っていたが、2年後には42カ所にまで増えるほどの人気だった。現在は、開館に追われているため休止しているが、「いつか再開させたい」と司書の元木さんは意気込む。2012年12月には市内竹駒町に仮設図書館を開館させた。蔵書数は14,000冊と震災前には及ばないが多くの利用者によって支持された。また当時NPO法人によって作られた図書館も市内に複数あり、連携や情報交換を行っていたという。互いに支えあっているのだ。

児童コーナーは白く染めた木製家具
■賑わいのある図書館
 日常的に使えて、人々が集まれる場所を作りたい。博物館や多目的ホールは何かイベントがないと行かない。その時、いち早く再建させる公共施設の候補にあがったのが図書館だった。図書館なら、いつでも訪れることができる、「市民の居場所」になるのではないかと考えたのだ。
震災コーナーでは被災し修復を終えた資料を展示
図書館の再建にあたっては、これからのまちづくりの参考にしてほしい、外から訪れた人々にこの地域や震災のことをもっと伝えたいという思いから、郷土や東日本大震災に関する資料を充実させた。
チャコールグレー色の閲覧室書架は照明付き
また、商業施設アバッセに併設することにより様々な良いことがある。買物ついでに立ち寄ったり、待ち合わせ場所として使ってもらったり、アバッセで買った飲み物を持ち込んだり。様々なシチュエーションに合うくつろぎの場を提供した。さらに、近隣の店とコラボレーションした企画も行っている。実は、図書館の利用者の中には、本を借りというより人と会う場として使う方もいるらしい。それも「歓迎します」と職員の村上さんは言う。なぜなら、図書館が人々の暮らしに寄り添っている証だからだ。

■訪れてほしい
 地元の全ての人に「行こうよ」と思ってもらえる場所、知りたい・読みたいに応えられる場所、人の流れを作れる場所でありたい。まだまだアバッセ周辺は工事中の場所が多く、「本当に中心市街地と言える場所になるのか、人々が戻ってきてくれるか、そして定住してくれるかはこれから」と芝さんは言う。その意味ではまだ道半ばであり、まさにこれからが試されるときである。街ににぎわいをとりもどすことに図書館が寄与できればよい。そのために、一度でも市外から「陸前高田市立図書館を見に来てほしい」と思う。居心地がよく、できるだけ長くいたいと思える環境は、他の図書館では味わえない空間だろう。
 2017年7月20日の開館以来、同年12月末までの入館者数は77,263人にのぼる。全市民が4回ずつ図書館を訪れた勘定になる。


インタビュアー明治学院大学1年 M.O.
インタビュー実施日:2017/11/26
東京都出身、東京都内在住です。陸前高田に来たのは今回の取材を含めて2回目。「百聞は一見に如かず」をモットーに、震災の被害に遭われた現地に行きたいという思いから、大学ボランティアセンターDo for Smile@東日本プロジェクトに所属しました。今回は、普段お会いできない方々にヒアリングができ、とても喜ばしく思います。来るたびに印象が違う陸前高田がこれからどうなっていくのか楽しみです。